はじめに
日本橋室町で開業している社会保険労務士の田中 寧子(たなかやすこ)です。
時々、雇用契約書または、労働条件通知書を出さない会社様、出していても、記載事項に不備がある会社様、または、就業規則と大幅に相違がある時があります。雇用契約書等は、会社と従業員の間で「働く条件」を明確にして、後々のトラブルを防ぐためにあります。法律的にも、実務的にも非常に重要で実際トラブルの際に必ず確認する書類です。また、助成金申請に必要になることもあるので、絶対に従業員雇用の際には、正確な書面て従業員に提示する必要があります。
今回は、雇用契約書等作成のポイントを解説していきます。
労働契約の基本要素
労働条件通知書、雇用契約書で会社が従業員に伝えたいこと。
従業員が知りたいこと。
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Point 01
労働時間の明確化
雇用契約書には、労働時間を明記することが重要です。具体的な勤務時間や勤務日、残業の有無について明文化することで、労働者は自らの生活を計画しやすくなり、雇用者も適切な労務管理を行えるようになります。 -
Point 02
賃金に関する詳細
労働者の報酬についても、雇用契約書に明確に記載する必要があります。給与の金額、支払日、手当やボーナスについて等の詳細を明記することで、労働者の不安を解消し、雇用者との信頼関係を築く基礎となります。
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Point 03
業務内容の具体化
契約書には、労働者が行う業務内容も具体的に盛り込むことが求められます。業務の範囲が不明瞭な場合、後々のトラブルを招く原因になります。明確な業務範囲を記載することによって、労働者は自身の役割を理解しやすくなります。
雇用契約書は会社と従業員の権利を守る第一歩
労働条件通知書・雇用契約書はなぜ必要でしょうか?
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労働条件の明確化
賃金・労働時間・休日・休暇・勤務地・業務内容などを文書で取り決めることで、双方の認識のズレを防ぎます。
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労使トラブルの予防
「言った・言わない」の問題を避けられます。未払い残業、解雇、転勤などで裁判になった際も、契約書が重要な証拠になります。
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法的義務の履行
労働基準法15条で、会社は労働条件を書面(または電子的交付)で明示する義務があります。契約書はその確実な手段です。
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従業員の安心・信頼につながる
書面で条件がはっきりしていると、従業員は安心して働け、会社への信頼感も高まります。
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経営の安定化
契約書があることで、労務管理が体系的に行え、組織の秩序や生産性の安定にもつながります。
雇用契約書・労働条件通知書は、労働者と雇用者の間で交わされる重要な文書であり、両者の権利と義務を明確にする役割を果たします。つまり、 「会社と従業員の約束を守る証拠」であり、「安心して働ける環境を作る土台」 です。
雇用契約書?労働条件通知書?同じなの?一体、どっちを出せばいいの?
それぞれについて以下、まとめてみます。
労働条件通知書
・根拠:労働基準法第15条で交付が義務づけられている
・目的:労働条件を明示し、労働者を不利な条件から守り、トラブル防止につなげる
・内容:賃金・労働時間・休日・契約期間など(法律で明示が必要とされる事項)
・交付の場面: 従業員を採用したとき 労働条件を変更したとき 有期契約の更新時
・対象:正社員・契約社員・パート・アルバイトなど全ての従業員
・特徴:企業が一方的に条件を明示する書類(従業員の署名は必須ではない)
雇用契約書
・根拠:法律で作成は義務づけられていない(任意)
・目的:企業と従業員が労働条件に合意した証拠を残す
・内容:契約期間・給与・勤務時間などの労働条件(通知書と同様の内容が多い)
・交付の場面:入社時、契約更新時など
・対象:交付義務はないが、全ての雇用形態で作成しておくのが望ましい
・特徴:双方が署名・押印して「合意した」ことを明確に残す書類(トラブル防止に有効)
つまり、まとめると
労働条件通知書=法律で義務、企業から「通知」するもの
雇用契約書=義務ではないが推奨、企業と従業員の「合意」を証明するもの→言った言わないトラブル防止に有効!
労働条件通知書・雇用契約書に記載するべき項目
<絶対的明示事項>
書面に必ず記載しなければならない内容です。具体的には以下のような項目があります。
・契約期間(有期契約なら期間の定め:更新する場合の基準)
・就業場所、業務内容
・労働時間(所定労働時間を超える労働の有無)・休憩・休日
・賃金(決定方法・計算・支払日・昇給に関する事項など)
・退職に関する規定
<相対的明示事項>
業種や運営指針 により異なりますが、必要に応じて記載する内容です。
例えば、退職手当、賞与、休職、福利厚生(健康保険、年金、交通費支給)など
2024年法改正のポイント
令和6年4月1日以降から、労働条件通知書では以下の点が新たに義務付けられています。
・就業場所や業務の変更範囲の明示(例:「会社の定める〇〇事業所」など抽象的記載も可)
・有期契約労働者の契約更新上限(通算年数や回数)についての記載
・無期転換申込権と無期転換後の労働条件の明示
トラブル回避のための雇用契約書ポイント
雇用契約書は、労働者と雇用者双方にとって重要な文書であり、働く環境を決定づけるものです。そのため、作成時にはいくつかの注意すべきポイントがあります。
まず第一に、契約書の内容が労働者の権利を正確に反映しているかを確認することが重要です。特に、労働条件や賃金、勤務時間、業務内容、そして雇用期間などの基本的な情報はきちんと明記される必要があります。これらの情報が不明確だと、後にトラブルが発生しやすくなります。次に、雇用契約書には、契約の変更や解雇に関する条項も含めておくことが重要です。これにより、労働者は自身の権利を理解しやすくなり、不当な解雇や不利益な契約変更を未然に防ぐことができます。
また、実際のトラブル事例を考えると、たとえば賃金未払いのケースや、勤務条件についての誤解から起こるトラブルが多くあります。このような事例においては、雇用契約書が適切に作成されていれば、トラブルを未然に防ぐことが可能です。たとえば、賃金についての明確な規定がなければ、労働者が自分の受け取るべき対価に対する理解が不十分になり、労働条件に対する不満が増加することになります。これを防ぐために、賃金規定には、基本給、手当、ボーナスの支払い条件や、試用期間中の給与についても詳細に記載することが求められます。
さらには、社会保険制度の取り決めも重要です。雇用契約書には社会保険についての取り決めを明記し、労働者が適切に加入できるよう配慮することが求められます。これにより、労働者は安心して働くことができる環境が整えられます。さらに、雇用契約書は法的な裏付けを持つため、万が一トラブルが発生した際にも、信頼できる資料として機能します。雇用契約書の作成は単なる手続きではなく、労働者と雇用者双方が安心して働くための重要なステップであることを忘れないでください。
雇用契約書を作成する際には、これらのポイントを考慮し、労働者の権利を守るために必要な条項をしっかりと盛り込むことが大切です。特に、労働基準法に則った内容であること、労働者の声を反映させること、そして誤解を招かない明記を心がけることが、安心して働ける環境を築くための具体的な対策になります。
雇用契約書の作成や内容に関する疑問や不安は、労働者にとって非常に重要です。企業が提供する雇用契約書は、単なる書面ではなく、労働者の権利を明確にし、雇用者との信頼関係を築くための重要なツールです。しかし、契約書の内容を正確に理解し、適切に作成していない場合、後々のトラブルに発展する可能性があります。雇用契約書の専門的なアドバイスが必要な場合は、信頼できる専門家に相談することが重要です。事前に不安や疑問点を解消することで、安心できる労働環境を整えることができるからです。また、契約書は単に法律的な義務を果たすためのものではなく、労働者が安心して働ける環境を提供するためのものでもあります。専門家の助言を受けることで、新たな法律や複雑な条項についても正確に理解できるようになります。実際のトラブル事例を参考にしながら、具体的な対応策を練ることができますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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有期雇用労働者にとっての雇用契約書
更新上限の有無と内容 有期労働契約の締結や契約更新の際には、契約の更新に上限がある場合はその有無と具体的な内容を明示する必要があります。 ・無期転換申込機会 「無期転換申込権」が発生する際には、その更新タイミングごとに無期転換を申し込むことができる旨を明記する必要があります。 ・無期転換後の労働条件 「無期転換申込権」が発生する際には、その更新タイミングごとに無期転換後の労働条件について明示する必要があります。
有期雇用契約の締結や更新:更新上限を新たに設ける場合や短縮する場合は、労働者にあらかじめ説明しなければなりません。 ・雇止めの予告や理由の明示:契約を更新しない場合は、契約期間満了日の30日前までに予告をし、労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は交付しなければなりません。
労働契約作成時の注意点
労働契約の締結や変更は、以下の原則に基づいて行うことが必要です
(1)労使の対等の立場によること
(2)就業の実態に応じて、均衡を考慮すること
(3)仕事と生活の調和に配慮すること
(4)信義に従い誠実に行動しなければならず、権利を濫用してはならないこと
労働契約の締結
・労働条件の明示等 使用者が労働者を採用するときは、賃金・労働時間その他の労働条件を書面などで明示しなければなりま
せん。
・労働者と使用者が労働契約を結ぶ場合に、使用者が、(1)合理的な内容の就業規則を(2)労働者に周知させていた場合には、就
業規則で定める労働条件が労働者の労働条件になります。
契約期間に定めがある場合
・契約期間に定めのある労働契約(有期労働契約)の期間は、原則として上限は3年です。なお、専門的な知識等を有する労働
者、満60歳以上の労働者との労働契約については、上限が5年とされています。
・使用者は、有期労働契約によって労働者を雇い入れる場合は、その目的に照らして、契約期間を必要以上に細切れにしない
よう配慮しなければなりません。
(別途、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申し込みによって無期転換権の発生する無期転換ルールがあることも要注意事項です。)
労働契約の変更
・労働者と使用者が合意をすれば、労働契約を変更できます。
・合意による変更の場合でも、就業規則に定める労働条件よりも下回ることはできません。
・使用者が一方的に就業規則を変更しても、労働者の不利益に労働条件を変更することはできません。なお、就業規則によって労働条件を変更する場合には、(1)内容が合理的であることと、(2)労働者に周知させることが必要です。
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