はじめに
こんにちは。東京 日本橋室町で開業している社会保険労務士の田中 寧子(たなかやすこ)です。
最近では、働きたい時にだけ働ける 副業や空いた時間を活用できる すぐに収入を得やすいということで、スポットワーカーとして必要な時に単発でお仕事をする方が増えています。今回は、従業員が他でスポットワークをしており許可したものの、本業そっちのけでスポットワークに励んでしまっていて困っていると事業主様から相談を受けました。本来は、両立ができることが前提で成り立っていることです。
今回は、スポットワーカーについての本業側からの視点で見て、スポットワーク側がどういった労務管理をしているかを把握し、普段から本業側はどういった注意点があるのか解説していきます。
スポットワーカーとは?
「スポットワーカー」というのは、1日単位・数時間単位など短期間の仕事を請け負う働き方のことを指します。
従来のアルバイトやパートのように長期契約を前提とせず、必要な時に「スポット(単発)」で働けるのが特徴です。
スポットワーカーは、本業側の会社は当然、スポットワーク側の会社も両方とも、労務管理がそれぞれ行われます。スポットワーク側の会社は、たとえ1日であろうと「雇用契約」が必要で、労働条件通知書の交付義務もあります。つまり、労働基準法、労働災害保険法(業務災害・通勤災害)、最低賃金法その他の労働関連諸法令が適応されます。残業した場合の割増賃金、会社都合の休業の場合の休業手当、ハラスメント等の義務等も発生しています。
以下、スポットワークの仕事内容一例を見ると、仕事中の負傷・疾病があり得ます。つまり、1日の単発とはいえ、スポットワーク側の会社は、スポットワーカーに対して労災補償をする必要があります。
【具体例】
飲食店のヘルプ
繁忙期の居酒屋が「今週金曜だけ洗い場スタッフを募集」と求人を出し、応募した人がその日だけ働く。
物流・倉庫作業
大型セールで出荷が増える倉庫が「明日の午前中だけ荷物の仕分けスタッフを募集」。
イベントスタッフ
コンサートや展示会などで「1日限定の受付スタッフ」「会場設営スタッフ」として参加。
小売店の販売サポート
バレンタインや年末年始に「レジ補助・品出し要員」を数日間だけ雇う。
5つのポイントを押さえよう!
本業側の従業員がスポットワークをする場合の
労務管理の注意点
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労働時間の通算管理(次の項目で解説)
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安全配慮義務(次の項目で解説)
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就業規則での副業の取扱い(次の項目で解説)
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競業避止義務・情報漏洩(次の項目で解説)
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社会保険・税務の取扱い:副業先の報酬が一定額を超えると、住民税通知などを通じて会社に発覚します。 社会保険については、週20時間以上勤務・年収106万円超(一定要件)で副業先でも加入義務が発生する場合あります。
現代における働き方は多様化しており、スポットワークという形態が注目を集めて需要が増えていますが、労務管理が複雑化しています。
本業側の労務管理の重要点の解説
会社の把握しておくべき重要事項!
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Point 01
労働時間の通算管理
労働基準法では、複数の会社で働いた労働時間を合算して法定労働時間を超えていないかを確認しなければなりません。
例)本業:1日8時間勤務 + スポットワーク:4時間勤務 → 合計12時間労働
→ この場合、残業代の支払い責任は、後から労働契約を結んだスポットワークを提供した会社に発生するのが一般的です。副業実態は、双方の企業が把握していることが重要です。
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Point 02
安全配慮義務
・過重労働による健康障害を防ぐ義務があります。
・スポットワークで夜勤をして、翌朝から本業に出勤したことにより、 疲労で事故や病気が起きた場合、本業の会社も安全配慮義務を問われる可能性があります。
やはり副業実態を、双方の企業とも把握していることが重要です。
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Point 03
就業規則での副業の取扱い
・副業を許可制にするのか、原則禁止にするのかを明記しておく必要があります。
・原則禁止の場合でも、政府は「副業・兼業促進」を推進しているため、全面禁止ではなく、事前申告制・事前許可性が考えられますが、“事前届出制”をを取る企業が増えています。
・就業規則について、企業秘密の流出リスクもあります。業界によってルールを明確化すべきです。

スポットワーク側の会社の
労務管理の注意点
1)雇用契約の締結
雇用契約の締結 たとえ1日だけでも「雇用契約」は必要です。
スポットワークサービス会社が募集・採用や賃金の支払いを代行することが多いですが、労務管理全般を行ってくれるものではありません。 スポットワークを提供をする会社にて労務管理が他の社員同様に行われなければなりません。
【スポットワーカーへの雇用契約書の明示事項】
・就業場所
・業務内容 勤務時間
・休憩・休日
・賃金(時給・日給・支払日)
・契約期間(単発なら当日限り)
2)労働時間の管理
・他社で働いている時間は把握しづらいですが、自社での勤務時間管理は必須です。
・過労による事故が起きた場合、「使用者責任」が問われる可能性があります。
・特に夜勤や長時間勤務をお願いする場合は注意が必要です。
3)賃金の支払い
・「即日払い」が多いですが、労基法では「毎月1回以上・一定期日払い」が原則。 ・即日払いをする場合は、「前払い制度」として扱うか、日雇い労働契約に基づき適正に処理する必要があります。
4)労災保険の適用
スポットであっても「雇用契約」がある以上、労災保険の対象になります。 万一、作業中にケガをしたら、スポットワーク先の会社が労災申請を行います。
5)社会保険・雇用保険の取扱い
短期なので加入不要と考えがちですが、以下に注意が必要です。
・雇用保険:31日以上の雇用見込みがある場合は加入義務
・社会保険:週20時間以上勤務・年収106万円超(一定要件)で加入義務が発生
多くのスポットワークは「加入対象外」になりますが、継続的に雇う場合は対象になり得ます。
6)労務トラブル防止
・業務内容・条件を事前に明確化していないと、
「思った仕事と違った」「休憩がなかった」などのトラブルになりやすいです。
・特にアプリ経由のマッチングでは、求人情報の正確性が重要です。
7)安全衛生管理
初めて来る労働者が多いため、簡単な安全教育・注意事項の周知が必要です。
倉庫・イベント設営などは事故が多いので、必ず現場指導を行うべきです。
スポットワーカーが巻き込まれている
よくあるトラブル
労働条件の不一致
・求人票には「簡単なレジ補助」とあったのに、実際は力仕事や長時間の立ち作業だった。
・「休憩あり」と書いてあったのに、忙しくて休憩を取らせてもらえなかった。
対策)アプリや求人票に正確な業務内容・勤務条件を明記し、当日も再確認する
2. 賃金トラブル
・即日払いのはずが、数日経っても振り込まれない。
・「交通費支給」とあったのに支給されない。
・勤務時間の端数(15分未満など)が切り捨てられて支払われない。
対策)労働条件通知書に賃金規程を明記し、タイムカードやアプリで労働時間を正確に記録する
3. 労働時間・シフトの行き違い
・アプリで「4時間勤務」と出ていたのに、当日現場で「もう2時間延長して」と言われた。
・逆に「人が足りたから今日はもう帰っていい」と短時間で切り上げられ、予定していた収入が得られない。
対策)事前に契約時間を明確化し、延長や短縮は本人の同意を得た上で書面・アプリで記録
4. 安全衛生面のトラブル
・倉庫で重い荷物を運ばされ、腰を痛めたが、労災申請がされなかった。
・イベント設営で危険な作業を任され、安全教育がなく事故につながった。
対策)簡単でも良いので作業前に安全説明を行い、危険作業は経験者や正社員が対応する
5. 雇用契約書・労働条件通知書がない
・「アプリ上の情報だけで契約書がない」ケースが多く、条件に関する証拠が残らない。
・トラブル時に「そんな約束はしていない」と言われ、泣き寝入りになる。
対策)労働条件通知書を交付(電子可)。求人内容も保存し、後で確認できるようにする
6. 社会保険・雇用保険の未整備
短期だからといって保険手続きをせず、事故や病気時に不利益を受ける。
本来は労災が使えるのに「自己責任」と片付けられる。
★スポットワーカーのトラブルは、
・労働条件の曖昧さ
・給与支払いの不透明さ
・安全管理不足
から起こりやすいのが特徴です。
【ポイント】
スポットワークは「短期だから大丈夫」と思われがちですが、労基法や労災の対象は通常の雇用と同じです。
特に 労働条件の明示・給与管理・安全配慮 の3点を押さえることで、トラブルの大半を防ぐことができます。
スポットワーク側の会社の労災保険
スポットワークサービスで雇用した労働者は、スポットワーク側の会社の労災保険が適用されます。
業務災害および通勤途災害、両方に対してスポットワーク側の会社に補償の責任があります。
実際、業務中・通勤中の負傷・疾病に遭ってしまった際、応急対応や安全確保は当然のこと、できれば労災指定病院にて受診させ、社会保険の保険証を使用させず、労基署へ労災を申告します。ここで、自身の社会保険で処理すると会社の「労災隠し」にも捉えられてしまうことがありますので、業務に関わる負傷・疾病でしたら、労災で申告することが重要です。
そして会社は労働基準監督署への報告義務があります。休業の日数や、傷病の程度により、休業補償給付、療養補償給付が労災で用意されているので正しく処理して、従業員を正しく保護しましょう。
【複数事業者にかかわる労災認定のポイント】
1. 労災の適用は「事故が発生した事業場」で判断 労災保険は 事業場ごとに適用 されます。
そのため、労働者がどちらの会社で事故に遭ったかで労災請求先が決まります。
本業中に怪我 → 本業の労災保険で請求
副業中に怪我 → 副業の労災保険で請求
2. 給付基礎日額の算定は「全ての賃金を合算」
2020年9月の労災保険法改正により、複数事業者で働く労働者については賃金合算 が認められました。
例: 本業:月収12万円
副業:月収8万円
→ 合算20万円を基に給付基礎日額を決定
3. 通勤災害は「就業先への通勤ごとに判断」
本業へ向かう途中の事故 → 本業の通勤災害
副業へ向かう途中の事故 → 副業の通勤災害
ただし、本業から副業へ直接移動する場合も 合理的経路 であれば通勤災害として認定されることがあります。
4. 注意点
副業側で事故が起きた際には、 副業側の事業場の会社 が「労災保険の請求書類作成義務」を負います。 他社での賃金情報を、労働者本人からの申告に基づき労基署へ提出する必要があります。 労務管理上、「副業・兼業届」を受けておくと、事故発生時にスムーズです。
5. 実務上の課題
実際には、副業先の賃金情報を本人が提出しないと正しく給付額が決まらないため、 労働者に情報提供を促すことが重要です。 企業間で賃金情報を直接やり取りする仕組みは現状ないため、本人申告ベースになります。
※精神疾患の労災給付の認定は、取り扱いが異なります。
本業とスポットワークの労働時間の通算について
【現状の通算管理の仕組み】
副業・兼業時には、本業・他社の労働時間を通算して、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えていないか、また割増賃金の支払いが必要かを判断する必要があります。これは労働基準法第37条の考え方に基づいています。
現在のモデル就業規則やガイドラインでも、この通算の考え方が前提とされています。
この通算ルールは、厚労省のガイドラインにも明記されており、企業にとっては対応が必要なポイントです。
【今後の制度改正・廃止の動向】
1. 割増賃金における通算制度の見直し検討
厚労省は「本業・副業間での労働時間を通算しない」方向での制度改正を検討中であり、通算の煩雑さを解消し、副業・兼業を促進する意図があります。現在は検討段階ですが、研究会の報告書にもその方向性が含まれています。
2. 通算制度の見直しは2026年以降に進行か
弁護士の解説では、通算管理が副業解禁の妨げになっており, 厚労省は制度変更を検討しているものの、70年以上続いたルールの改変には法改正が必要であり、実施は2026年以降になると見られるとされています。
3. 経団連などの意見も通算廃止に賛同
経団連を含む産業界からは、労働者の健康配慮が前提ならば「通算しない」仕組みとするよう強く求める声もあります。
労働時間通算の廃止に向かう話し合いになっていますが、現状は、通算する事となっておりますので、通算での取り扱いをしていきましょう。会社は、従業員が副業により本業に支障が出ていないか、長時間労働、過労など従業員の健康等の安全を配慮しましょう。
スポットワークは、今後ますます一般化しますし、それに伴い適切な労務管理が不可欠です。
まずは、事前申告制でも事前許可制でも必ず従業員のスポットワークの状況を把握することが大切です。さらに、就業規則を整備しておくことが重要です。
また、従業員と定期的なコミュニケーションを図ることで、問題の早期発見につながります。
柔軟な働き方を国が進めていると同時に、労務管理が複雑化してきています。労務管理の複雑化や就業規則に不安がある場合、ぜひお気軽にご相談くださいませ。
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